舞城王太郎『山ん中の獅見朋成雄』

山ん中の獅見朋成雄

山ん中の獅見朋成雄

僕の首の後ろにも、他人よりもちょっと濃いめの産毛が生まれたときから生えていて、これが物心ついたころから僕の抱えた爆弾だった…。(中略)獅見朋成雄から立ち上がる神話的世界。ついに王太郎がその真価を顕し始めた。ゼロ年代デビュー、「ゼロの波の新人」の第一走者が放つ、これぞ最強の純文学。 (講談社による内容紹介)

舞城版『千と千尋…』(?) として名高い(?) 本作を読んでみました。

買ったのは2年ほど前でしたが、舞城の他の本は読んでしまったため、今まで読まずに残してありました。
続編とも言える『SPEEDBOY!』が出たので、とうとう読む日が...。


前半はどことなくのどかで、特に強烈な印象を与える場面もありませんでしたが、
怪しい人達が出てくるあたりから、なかなか楽しくなってきました。
おこる出来事は、けっこう酷い内容ではあるんですけどね。
グロテスクになりそうでならない。
ある種のさわやかさを失わないのはなぜでしょう。文体のせいか?


でも本作の場合、全般的に強烈さは少ないですよね。
何かを主張する意識の激しさみたいなのが薄い感じはします。
いくつか問題提起っぽいものは出てくるのですが、どことなく中途半端というか。


ただ、その中途半端っぽさが、主人公の成雄には似合っているような気もします。
これは成雄が中途半端だと言っているのではなく、今の成雄を中心として見れば、どのような問題提起も中途半端に過ぎないということです。


今は走ることだけが必要なのだろうから。


世界は密室でできている』の主人公とも『ドリルホール・イン・マイ・ブレイン』の主人公ともまた違って。