米澤穂信『氷菓』

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。 (出版社による内容紹介)

さよなら妖精』に予想以上に感動したので,同じ作者のデビュー作を。
いわゆる“日常の謎”系の連作ミステリだけど,でてくる謎は(全体を通しての謎も含めて)そっち系のミステリとしても小粒な印象。
なので,それほど強いインパクトはないのだが,それ自体は決して不満には感じなかった。
むしろ派手な謎に気をとられないためか,主人公たちの気持ちがわかりやすく伝わってくる気がする。*1


主人公の奉太郎は謎を解く才能があっても,それをあんまり発揮したくはないようで,それは『春季限定……』の主人公・小鳩君と共通しているけど,そういう自分が嫌いなわけでもないらしい。
両者の違いは,何かに積極的に関わることで嫌な目にあったか,嫌な目にあうのを予め避けているかの違いのようだ*2

積極的には関わろうとしないけど,関わりたくないわけでもない(憧れる部分もある)という奉太郎の自己分析?は,僕自身もわりとそうだったので,わりと共感。
僕の場合は別に特殊な才能があるわけでもなく,だらだらと過ごしてきてしまったわけだけどw。


奉太郎の謎解きの才能を引き出す(作動させる)ため,本作では3人の個性ある友人達が登場する。
これがうまく役割分担されているので,なかなか興味深かった。
それは「六 栄光ある古典部の昔日」で典型的なのだけど,
常識人だったり,記憶力に優れていたり,知識力(雑知識)に優れていたり,互いに補い合うような形になっている。
何となく,RPGとかに出てくる“パーティ”みたいで,ちょっと面白い。
ある種の共同作業というのが,作者の一つのテーマになっているような気もする。


それにしても,最後の章が「サラエヴォへの手紙」だったりで,作者はよっぽどユーゴスラビアが好きなのか。
同士!? と思わないでもないが,


まあ,これは僕の勘違いかもしれない。
 

ちなみにプリシュティナ(p.181)はコソボ自治州の州都ですよね。知ってますって。
 

*1:作者が狙ってやっているのかどうかはわからないけれど,青春ミステリとしては,そういうやり方もありだろう。

*2:さよなら妖精』の主人公の場合は,積極的に関わりたいことが見つからずに悩んでいるというところか。